講 演 会 ご 報 告('00 10/20) 

演 題 「アメリカで見た子育てのヒント」
講 師  野口 桂子さん 

野口桂子さんプロフィール  

 ご主人の仕事の関係でパリに2年間、ニューヨークで3年間生活。
ニューヨーク滞在中は当時小学生だった2人のお子さんの母親であると同時にフォーダム大学の大学院生となり、教育学の修士号を取得。 同時にNHK「やさしい英会話」にレギュラー出演、
 さらにローカルテレビ「ライ・シティー・テレビジョン」で日本文化を紹介するなど幅広い活動を行う。
 1997年に帰国後は神奈川大学で時事英語の講座を担当、国際比較教育研究家としても活躍、講演会活動も活発に行う。

* 講演は、野口さんの海外生活を中心に、ご自身の子供時代の経験、日本での教師経験(私立小学校、インターナショナルスクール)、知人の話等も織り込まれ、かなり多岐に渡る内容でした。この講演会報告では、講演のテーマでもあり、野口さんが一番時間を割いてお話をされた、「アメリカで見た子育てのヒント」を中心にまとめてみます。


1.アメリカの小学校での民主主義教育

「皆と仲良くしなくてもいい。」と、長男の担任の先生が話したという。小学生の時の習字の時間に、皆一斉に、「みんな仲良く」という文字を書いた私には、すぐには理解できないことであった。先生の真意は、「人間は千差万別であり、自分と波長の合う人もいるし、合わない人もいる。合わない人と無理に仲良くする必要はない。友情を強いることはできない。大切なことは、どんな人とでもお互いを尊重し合うこと。これが民主主義の基本。」ということであった。アメリカのような移民の国では、人々の背景にある文化も習慣も考え方も違う。そんな社会の中でうまくやっていくためには、一人一人の違いを認め、尊重し合うことが必要となる。異分子を受け入れる包容力がアメリカの魅力といえる。 

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* 日本では、子供がかなり小さいうちから、「どんなお友達とでも仲良く遊びなさい。」ということを強いているように思う。小学校の低学年では、お友達に対して好き嫌いがなく、上手に仲良く遊べることが、いい子であるための条件になっている。子供達に「無理をしてみんなと仲良くしなくてもいいのよ。たとえ嫌いな人がいてもそれは仕方がないこと。でも嫌いだからといってその人のいうことを聞こうとしないのはいけないことよ。」なんていうことを言って下さる先生がいたら、精神的に楽になり救われる子供がたくさんいるような気がする。


2.個人の選択
  
バックトゥスクールナイトという行事の日、学校に掲示してある、子供のプロジェクトを見て回った。我が子の作品を一生懸命に探したのに見つからなかったので、翌日先生にその理由を伺うと、「私は本人が希望した生徒の作品のみを掲示している。」という返事を頂いた。わが子は自分の作品を他人に見せることを希望しなかったらしい。子供の自由意思を尊重するこのやり方は、子供の不公平感を生まず、自分の作品を多くの人に見てもらいたいと思う子には満足感を与え、「これは人には見せたくない。」という子の意思も尊重することになる。日本の小学校で教師をしていた時、全員の図工の作品や、習字の作品を平等に展示したものだが、中には、「展示してはかえってかわいそう。」と思えるものがあったことも事実である。

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* 日本の学校は形の上の平等にこだわりすぎる嫌いがあるように思える。展示物もそうだが、運動会の徒競走でタイム別にグループを作り、早い子は早い子同士、遅い子は遅い子同士で走らせるなどということも(すべての学校でやっているわけではないだろうが)形の上だけの平等にすぎないように思う。アメリカの小学校のように小さいときから、たとえささいなことであっても自分の意思が尊重されていると、きちんと自分の考えを持ち、自己主張ができるようになるのかもしれない。もし日本でこのやり方を導入するならば、その前に、人と違ったことをやる人を認めることの大切さをまず浸透させなければならないかもしれない。


3.許可証

 美術の先生が、新学期の初日に配布した、許可証がとても素晴らしいものであったので紹介したい。その内容とは以下の通りである。

It's OK to try something you don't know. あなたが知らないことに挑戦しても構いません。

It's OK to make a mistake. 間違ったっていいんです。

It's OK to take your time. 時間をたっぷり使っていいですよ。

It's OK to find your own pace. あなたのぺースでどうぞ

It's OK to do it in your way. あなたのやり方で結構ですよ。

It's OK to bungle so next time you are free of fear of failure enough to succeed.
成功するには失敗を恐れてはいけない。その次の成功に結び付ける。

It's OK to risk looking foolish. あなたが馬鹿みたいに見られても気にしないで。

It's OK to be original and different. 周りの人と違っていてもいいのです。

It's OK to wait until you are ready. 準備がきちんと整うまでは、始めなくてもいいのですよ。

It's OK to experiment safely. 安全に十分気を配れば、実験してみてもいいのですよ。

It's OK to question the "should".
「どうしてこんなことをしなくてはいけないのかな」と疑問を持っても構いません。

It is special to be you. あなたがあなたらしくあるということはとても大切なことです。

It is sometimes necessary to make a mess as long as you are willing to clean up. The Act of creation is often messy! 後片付けをきちんとしさえすれば、時には汚したっていいのです。創造的なことをやるときには、周りがめちゃめちゃになりやすいものなのです。

 「自分のペースで失敗を恐れず、なりふり構わずなんでもやってみることが大切である。」というメッセージを子供達は受け取ることができた。ノーベル賞を受賞した、白川博士も、研究成功の発端は失敗からだったという話をされていたが、子供達の失敗を受け入れてくれることで、子供達は、「自分は受け入れられている、失敗しても何かが分かればいいんだ。」という気持ちになれるのである。

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* 日本の小学校でのお約束ごとというと、ほとんどが「〜をしてはいけない。」という内容のような気がするが、それだけに一層、It's OK 〜で始まるこの許可証が新鮮で素晴らしいものに思えた。チャレンジすることの素晴らしさを是非我が子にも教えたいと思った。


4.「奉仕活動の義務化」に思うこと

 最近、「奉仕活動の義務化」が話題になっている。個人的に条件付きで賛成である。ミッション系の学校に通っていて、中、高校時代、教育の一環として、いわば義務で奉仕活動をしていた。老人ホームに行ってお年寄りと話をするという奉仕活動をしていた時、「あなたは素晴らしい。」と誉めてもらったことがある。その言葉が自分に大きな自信を与えてくれたような気がする。たとえきっかけはどうであれ、まず奉仕活動をしてみることは決して悪いことではないと思う。その活動が若い中、高校生のその後の人生にどんなきっかけを与えるかもしれないのだから。

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* 日本でボランティア活動がもっと盛んになるためにも若いうちにボランティアを経験することは大切だと思う。ただしそれが内申書に使われたりするのはやはり変だと思う。野口さんも条件付きでとおっしゃっていたが、純粋にボランティア活動をすることをもっと気楽にできるような社会になって欲しいと切に思う。


5.最後に

 移民で成り立つ大国アメリカがたくさんの悩みを抱えていることは、周知の通りである。教育に関してもいろいろなことを試行錯誤している段階である。でもそのアメリカの民主的で常に柔軟であることから学ぶことは多い。

*reported by E.K.*

涙あり、笑いありの、野口先生のお人柄がしのばれる、和やかな講演会でした。 (E.K.さん、上手にまとめて下さってありがとうございます!)


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